(宮部みゆき)
実業之日本社
自転車によるひき逃げの死亡事故、遺族である娘たちは父のことを本にして出版したいと願い、主人公である杉村はそれを編集者として手伝うことになる。杉村は何々コンツェルンの娘婿で、だから裕福な生活、という以外には普通のサラリーマンである。コンツェルンの末端の広報室に在籍し、遺族姉妹への手伝いは舅に頼まれたことだった。
ストーリーはリアルに丹念に丹念に進められてゆく。そのために何だかやたらと退屈だった。特に前半は、主人公の恵まれて、安定して、幸福に包まれている暮らしぶりが強調されていて、まるで読み手の妬心を煽っているかのようにも見える。ちらちらと不満を見え隠れさせてはいる。皮肉めいた言い方で、でもそれは心の声で決して表面には出さない。人当たりはよく親切心に満ちている。
でもこの優しさってもしかすると冷ややかさを含んでいるのかも。終わりの方でショッキングな事態が出現、責める言葉に何で何も言おうとしないんだろう。結局は外野の出来事であるというのだろうか。後味がよくなかったな。例えば主人公の幸福を脅かす何かの事件でもあったら、たとえこの人でも思いきり自分を出すだろう。そっちの方が見たいな。
リアルで丹念、これは普通過ぎて地味ではあるけれども、話し方やつきあい方の手順?の勉強になる感じがする、なんてね。でもホントに無理のない自然な流れを出しているんで実際にあるシーンを見ているかのようだった。